補強土壁工法が国内に導入され,1972年に国内で最初の施工が行われてから早や30年が経過しました。その後の発展は著しいものがあり,現在では年間5,000件程度の補強土壁が全国各地で施工されています。
一口に補強土壁といっても,壁面材や補強材の違いにより30種類もの工法がありますが,設計については統一した手法はなく,工法ごとに異なる設計手法を採用しているのが現状です。その結果,現地に適した補強土壁工法を選定するのが非常に困難になってきています。
ここでは補強土壁における工法選定の実状・問題点を述べるとともに,本来あるべき工法選定について考えることにしました。
公共事業のある現場で補強土壁が計画されているとしましょう。公共発注機関から業務依頼を受けた建設コンサルタントはどのようにして,現場に適した補強土壁工法を選定するのでしょうか?
一般的には次のような手順で工法選定を行っているのが実状です。
これが補強土壁における工法選定の実状です。このような手順で現地に適した工法が選定できるでしょうか?次に現状の工法選定における問題点について考えていきます。
現状の工法選定には色々な問題点が考えられますが,細かい問題点は後述する本来あるべき工法選定で述べることにして,ここでは最大の問題点について述べることにします。
現状の工法選定における最大の問題点は,直接工事費が安価な工法が採用されるため,すべてのメーカーが「安価な工法」の開発・販売に向かっていることです。もちろん,補強土壁工法が求められる機能が同一であれば,より安価な工法を選択することは正しい判断だと思われます。
問題はその他の機能は無視して,「安価な工法」だけに着目して,それだけで工法が選定されることです。
補強土壁メーカーがその他の機能(例えば安定性や耐久性等)を無視して,「安価な工法」のために経済性のみを追及していけばどのようになるでしょうか?経済性のために,安定性や耐久性が犠牲になることは十分考えられます。
その結果,補強土壁工法は経済性に優れた構造物になるにしたがって,一方では安定性や耐久性が低下する構造物になっていきます。
このような状態になっていくのが最大の問題点です。このような状態が続きますと,とんでもないことが将来発生しそうで非常に心配です。
それではなぜこのような状態になったのでしょうか?以下に考えられる原因について述べることにします。
第一の原因は公共工事の発注機関が財源不足のために,「安い工法」を望んでいることです。
財源不足とともに,国の会計検査対策も「安い工法」を望む一因となっています。当然ながら,補強土壁メーカーは顧客(発注機関)が望んでいる商品(工法)を開発・販売するようになっていきます。また,建設コンサルタントも同様に顧客が望む商品を選定していきます。
第二の原因は本来あるべき補強土壁の工法選定に関する技術が確立されていないことです。
工法選定において検討する項目としては経済性の他に,安定性,耐久性,施工性,環境との調和等がありますが,経済性以外は比較による優劣を明確にする手法は現段階では確立されていません。その結果,はっきりした数字で優劣が決まる経済性だけで工法選定する事態に陥ったものと思われます。
それでは本来あるべき工法選定とはどのようなものでしょうか。正しい工法選定について考えてみましょう。
公共構造物として,やはり「安全性」は第一に求められると思います。ただし,この安全性でも,補強土壁が設置される目的・重要度等により,その程度は異なると思います。
次に「耐久性」も重要です。通常公共構造物としては,最低でも何十年という耐久性が求められます。
その他には「維持管理」のしやすさ,現場における「施工性」,環境性や美観性を含んだ「周辺環境との調和」等も重要です。
さらにいうまでもなく,「経済性」も重要な検討項目です。
現在国内には壁面材や補強材の違いにより,30種類程度の補強土壁があります。
現場で使用する補強土壁はこの中から選定されるわけですから,これらがどのような工法で,どのような特性を持ち,どのような設計手法を採用しているかを把握する必要があります。
土木構造物は,設置される現場条件により設計や施工時の対応が異なります。
補強土壁においても同様で,そのために現場状況を十分調査して,現場条件を明確にする必要があります。特に基礎地盤状況,使用する盛土材状況,目的,周辺環境状況等を把握することは,工法選定する上でも非常に重要です。
ここで最大の問題は補強土壁が求められる機能に対して,どのように比較検討していくかということです。
例えば「安全性」について,設計法の異なる2つの工法の安全性をどのように評価するかが問題です。
また,経済性についても現在実施している直接工事費のような初期コストだけで比較するのではなく,施工時から取壊しまでの全供用期間に要するコスト,すなわちライフサイクルコストで比較すべきですが,ライフサイクルコストの算出法はまだ確立されていません。
ただここで重要なのは,まだ比較検討手法が確立されていないから省略するのではなく,あくまで補強土壁が求められる機能に対して,検討を試みることで,それが今後のあるべき工法選定につながっていくものと確信しています。
以上,あるべき工法選定について述べてきましたが,実際に30種類の中から1つの工法を選定することは非常に困難です。ここでは具体的な工法選定の手順について述べることにします。
補強土壁工法は主要部材である「壁面材」と「補強材」の組合わせにより工法が決定されます。したがって,工法選定ではこれら主要部材を別々に検討して,部材を選定する方法が有効です。
壁面材には,コンクリート製のもの(コンクリートパネル,コンクリートブロック,現場打ちコンクリート)と壁面緑化が可能な鋼製枠の2つに大別できます。
設置する現場では,周辺環境との調和を考慮して,どちらのタイプの壁面材が望ましいかを検討します。当然ながら,その場合には安全性,耐久性,施工性,経済性等も考慮する必要がありますが,ここでは少なくとも2つのタイプからどちらか1つを選定することになります。
補強材には帯鋼(ストリップ),支圧版,格子状鉄筋,ジオテキスタイル等の4種類が多く使用されています。材質的には鋼製のものと合成高分子材のものの2種類に大別されます。これらの補強材は各々特性がありますので,使用する盛土材の条件や施工性からある程度の種類に絞り込むことができます。
壁面材と補強材がある程度絞り込むことができれば,それらの組合わせとなる補強土壁工法もある程度絞り込むことが可能です。できれば,3工法程度に絞り込みを行います。
絞り込まれた3工法に対して,求められる機能としての安全性,耐久性,施工性,維持管理,周辺環境への調和,経済性等の項目ごとに比較検討を実施して,総合的な判断により,最終的な工法を選定します。
補強土壁における工法選定では経済性しか考慮せず,結果的に安価な工法だけが採用されているのが現状です。このような傾向が続けば,補強土壁の品質自体が低下して,今後とんでもない事態に発展しそうであることを述べてきました。
さらに本来あるべき工法選定についても述べてきましたが,そのために必要な検討手法がまだ確立されていないという問題点も指摘してきました。
以上をまとめると次のようになります。
以上,「補強土壁における工法選定の問題点と今後のあり方」について述べてきました。しかしながら,実際にこのような工法選定を行うには,工法毎の設計計算ソフトや資料収集などの環境整備だけでなく,豊富な経験やノウハウが必要となり,中々簡単にできるものではありません。
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