(更新日:2022年9月2日)
1. 擁壁の変状・損傷の発生形態
擁壁の変状・損傷の発生形態は,設置箇所における地形,地質・土質,降雨,地下水,湧水等の調査・検討及びその対応が不十分であることが変状・損傷要因の大半である。特に,集水地形の箇所に設置された擁壁,斜面上に設置された擁壁,軟弱地盤上に設置された擁壁等で変状・損傷が発生することが多く,こうした箇所においては十分な注意が必要である。また,擁壁は,一般に縦断方向に長い構造物であり,横断及び縦断方向において設置箇所の条件が変化する場合があることにも留意する必要がある。
擁壁工の実施において,一般的に留意すべき擁壁の変状・損傷の発生形態とその主な原因を,表-1に示す。
表-1 擁壁の変状・損傷の発生形態
変状・損傷の種類 | 発生形態と原因 | 略図 |
滑動 | (発生形態) ・擁壁に作用する荷重の増加や滑動抵抗力の低下が生じ,水平方向の荷重が基礎地盤の抵抗力を超過すると,擁壁が前面側に押し出される現象が起き,擁壁天端と背面盛土の接地面に地割れや擁壁のブロック間にずれが発生する。 (原因:荷重増加) ・裏込め土への雨水や湧水等の浸透による土圧や水圧の増加。 ・地震動による慣性力や地震時土圧の作用。 (原因:滑動抵抗力低下) ・擁壁の前面地盤の掘削や洗堀による前面抵抗の喪失。 ・雨水の浸透等による基礎地盤の飽和化に伴うせん断抵抗力の低下や浮力の影響。 |
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転倒・支持力不足 | (発生形態) ・擁壁に作用する荷重の増加や支持力の低下によって,擁壁前面側に回転させるモーメントに対して抵抗するモーメントが不足する場合や,鉛直方向の荷重に対して地盤の支持力が不足する場合,擁壁が前面方向に傾倒し前面側が地盤にめり込み,擁壁天端と背面盛土の接地面に地割れや擁壁のブロック間にずれや段差等が発生する。 (原因:荷重増加) ・裏込め土への雨水や湧水等の浸透による土圧や水圧の増加。 ・地震動による慣性力や地震時土圧の作用。 (原因:支持力低下) ・降雨等の影響による地下水の上昇。 |
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軟弱地盤における沈下 | (発生形態) ・軟弱な地盤を含む地盤上に擁壁が設置されると,背面盛土等の影響で軟弱な土層に圧密沈下が生じる。この圧密沈下量が大きいと,擁壁が背面側に倒れ込むような現象が起き,擁壁のブロック間で不同沈下によるずれや段差等が発生する。 (原因) ・横断及び縦断方向の地層構成等の調査不足等。 ・背面背面盛土高さの設計変更や地下水の汲み上げ等による地下水位の低下による圧密の進行。 |
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円弧すべり | (発生形態) ・擁壁に作用する荷重の増加や背面盛土及び基礎地盤を含む地盤のせん断抵抗力の低下によって,せん断抵抗力が作用荷重より小さくなると,背面盛土や基礎地盤を通るすべりが生じる。これに伴い擁壁が背面方向に回転し,前面側の地盤が盛り上がるような現象が起き,擁壁のブロック間でずれや段差等が発生する。 (原因:荷重増加) ・裏込め土への雨水や湧水等の浸透による土圧や水圧の増加。 ・地震動による慣性力や地震時土圧の作用。 (原因:せん断抵抗力の低下) ・降雨等による地下水位や湧水量の変動。 (原因:その他) ・横断及び縦断方向の地層構成等の調査不足等。 |
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側方移動 | (発生形態) ・軟弱地盤に設ける杭基礎の擁壁では,背面盛土による偏荷重を受け,杭基礎が側方移動を起こし,擁壁が背面方向に回転しながら倒れ込み,沈下し,擁壁のブロック間においてずれや段差等が発生する。 (原因) ・側方移動に対する設計時の不適切な対処。 ・施工における背面盛土の不適切な盛土材の使用による重量の増加。 ・横断及び縦断方向の地層構成等の調査不足。 |
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擁壁躯体の損傷 | (発生形態) ・擁壁躯体の耐力不足により,躯体の途中に屈折やずれが発生する。 (原因) ・地震動による慣性力や地震時土圧の作用。 ・降雨等の影響による盛土内の水位の上昇に伴う水圧や土圧の増加。 ・ブロック積擁壁の胴込めコンクリートの強度や充填厚さ不足。 ・重力式擁壁やもたれ式擁壁の躯体コンクリートの打継ぎ目の不適切な施工。 ・コンクリートの劣化や鉄筋の腐食等。 |
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擁壁基礎の洗堀 | (発生形態) ・擁壁基礎の根入れ部及び基礎地盤の土砂が流水や波浪により洗い流された場合,擁壁が前面に傾いたり,ずれ落ちるような現象が起きる。 (原因) ・河川の河道変動。 ・将来の洗堀が予想される箇所での根入れ深さの不足。 ・洗堀防止工(根固め工)の未設置等。 |
参考文献
・文献 ・社団法人日本道路協会:擁壁工指針(平成24年度版),pp11-15,2012.7
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